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東京地方裁判所 昭和37年(レ)97号 判決 1963年2月13日

判   決

東京都港区麻布霞町四番地

控訴人

マンスフイールド株式会社

右代表者代表取締役

サムエル・ラザソン

右訴訟代理人弁護士

藤本猛

同都北区田端町三六五番地

被控訴人

山木恵美子

右輔佐人

山木善臣

右当事者間の損害賠償請求控訴事件について、つぎのとおり判決する。

主文

1、原判決をつぎのとおり変更する。

a  控訴人は被控訴人に対し金一九八、一四八円を支払え。

b  被控訴人のその余の請求を棄却する。

2、訴訟費用は、第一、第二審を通じてこれを三分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

3、この判決は、被控訴人の勝訴の部分に限り、仮りに執行することができる。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消す。被控訴人の請求(当審において拡張した部分を含む)を棄却する。訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求め、なおその請求の趣旨を拡張して、控訴人は、被控訴人に対し金三三四、五六八円を支払え。訴訟費用は第一、第二審とも控訴人の負担とする旨の判決を求めた。被控訴人は、その請求の原因として、

一、昭和三六年二月一日午前一時五〇分ごろ、文京区音羽町一丁目四番地先道路上において、訴外佐藤譲治運転の乗用自動車(車輛番号五な三九〇二号、以下本件自動車という。)が、都電護国寺前停留所の安全地帯に衝突し、よつて、同乗していた被控訴人は、脳震盪、顔面裂傷、腰部及び背部打撲の傷害を受けた。

二、本件事故の発生は、訴外佐藤の過失に基因する。すなわち、本件事故の現場は、都電の通つている直線の大通りで見通しは非常によいのであるから自動車運転者としては、絶えず前方を注視してかりそめにも都電の安全地帯などに衝突することがないよう注意して進行すべき義務がある。しかるに、同訴外人は、この注意を怠つて右側の窓外を見ながら走行したため、前記のような衝突事故を惹起するに至つたものである。

三、控訴人は、被控訴人に対し、つぎの理由によつて本件事故によつて原告がうけた損害を賠償する義務がある。

1、本件自動車は、控訴会社代表取締役サムエル・ラザソンの所有であるが、訴外サムエル・ラザソンはこれを控訴会社に提供してその使用に委ね、訴外佐藤は、当時控訴会社に雇われて本件自動車の運転業務に従事していた。

2、本件事故は、訴外佐藤が社用を終えて自動車を自宅において保管すべく、運転帰宅の途中で惹起したものである。

3、したがつて、控訴人は、本件自動車を自己のため運行の用に供していたものというべきであるとともに、本件事故は、客観的な行為の外形上控訴人の事業の執行について生じたものというべきであるから、控訴人は、本件事故の発生によつて被控訴人がうけた後記損害中いわゆる人的損害(後記四の5を除く損害)については自動車損害賠償保障法第三条本文の、その余の損害については民法第七一五条第一項の各規定によつてそれぞれ賠償すべき義務がある。

四、被控訴人がうけた損害は、つぎのとおりである。

1、治療費金一三、〇三八円。これは、被控訴人の前記負傷の治療のため、東京都立大塚病院に支払つた金額である。

2、交通費金九〇〇円。これは、被控訴人の退院及び通院のためのタクシー代金一回について一八〇円の五回分である。

3、診断書代金六〇円。但し、険保金受取につき安田火災海上保険会社に提出するための診断書代金である。

4、被控訴人は、本件事故発生当時桑沢学園ドレスデザイン科に通学して、その春卒業が予定されていたが、本件事故の発生によつて卒業試験がうけられず卒業が一ケ年延期されたため、

(イ)  授業料合計金一一、六一〇円。但し昭和三六年以降昭和三七年三月まで七ケ月分である。

(ロ)  文具、教材費等金七、〇〇〇円。但し、前同期間月一、〇〇〇円の割。

(ハ)  通学のための交通費金五、五三〇円。但し、前同期間国電田端駅渋谷駅間乗車賃月七九〇円の割。

の余分の支出を余儀なくされた。

5、本件事故発生当時着用していた被服の汚染又は破損による損害合計金一万円。

(イ)  オーバーの洗濯代金三五〇円。

(ロ)  ツーピース(汚染及び破損)金八、〇〇〇円。

(ハ)  ブラース(〃)金一、〇〇〇円。

(ニ)  肌着(〃)金七〇〇円。

(ホ)  スリツプ(〃)金一、〇〇〇円。

(ヘ)  靴下(〃)金五〇〇円。

右(イ)ないし(ヘ)の合計は、金一一、五五〇円であるが、約二ケ月間使用したものなので、その点を考慮しても少くとも合計金一万円の損害を蒙つた。

6、得べかりし利益の喪失による損害合計金二〇六、四二〇円。

(イ)  被控訴人は、本件事故に遭遇しなかつたならば、昭和三六年二、三月中も母の経営していたバーで従前どおり稼働して一ケ月金一五、〇〇〇円の割合による合計金三万円の収入を得ることができた筈であるが、他方右二ケ月間に桑沢学園の授業料金二、〇〇〇円と、通学のための交通費金一、五八〇円合計金三、五八〇円の出費を免れたので、その差額金二六、四二〇円。

(ロ)  被控訴人が予定どおり昭和三六年三月に桑沢学園を卒業していたならば、同年四月から適当な職場に就職できた筈であり、しかも、その一ケ月の収入は現状(昭和三七年四月株式会社東武百貨店に就職し、手取月収金一五、二六六円。)に照して、少くとも金一五、〇〇〇円はあつたと考えられるから、その一二ケ月分の合計金一八万円。

7、慰藉料金八万円。被控訴人は、未婚の女性であるが、本件事故の発生によつて、前記のように負傷し、特に顔面裂傷は瘢痕を残しているので、これらの精神的苦痛を慰藉するためには金一〇万円の慰藉料をもつて相当と考えるが、被控訴人は、すでに訴外佐藤から金二万円の見舞金を受領しているのでこれを控除したものである。

五、そこで、被控訴人は、第一審において右損害のうち金一〇万円の請求をしたが、当審においてその請求を拡張して、損害の金額金三三四、五六八円の支払を求める、と述べ、

控訴人の抗弁は、これを争う、と述べた。

控訴代理人は、請求原因に対する答弁として、

一、請求原因一記載の事実は認める。

二、同二記載の事実中、訴外佐藤に過失があつたかどうかは知らない。

三、同三記載の事実中、1記載の事実と、2記載の事実のうち本件事故は、訴外佐藤が社用を終えた後の事故であることは認めるが、その余を否認する。同訴外人は、控訴会社の用務を済ました後、深夜その業務を離れてスタンドバー「コーパ」に立ち寄り、間もなく閉店時間となつたので被控訴人とその母をその自宅に送るため本件自動車に同乗させて本件事故を惹起したものであるから、このような行為の外形は、如何なる立場から見ても控訴会社の業務の執行と認めることは不可能であり、また、本件自動車を控訴会社のため運行の用に供したものということはできない。

四、請求原因四記載の損害については知らない、と述べ、

抗弁として、深夜、訴外佐藤に誘われるままに同人の運転する自動車に乗車した被控訴人の軽卒は、責められるべき点が多いから、仮りに、控訴人に損害賠償の義務があるとしても、賠償額を算定するについてこれを斟酌すべきことを求めると述べた。

(証拠―省略)

理由

一、昭和三六年二月一日午前一時五〇分ころ、文京区音羽町一丁目四番地先道路上において、訴外佐藤譲治運転の本件自動車が、都電護国寺前停留所の安全地帯に衝突し、よつて、同乗していた被控訴人が脳震盪、顔面裂傷、腰部及び背部打撲の傷害をうけたことは、当事者間に争いがない。

二、(証拠―省略)を綜合すると、訴外佐藤譲治は、本件事故発生当日の午前一時ころ、かねてから知つている被控訴人の母くにの経営していたスタンドバー「コーパ」に赴き、同店が間もなくして閉店となるや、被控訴人とその母に対し自宅まで送るからとすすめて、くにを本件自動車の後部座席に、被控訴人を運転席の左横の助手席にそれぞれ乗車させたうえ、時速約五〇粁の速度で前示の場所に差しかかつたのであるが、同所附近にある「レオ」というバーの前を通過するころ被控訴人に声をかけ、進路前方の安全を確認しないままうかつにも右側の窓外に眼を移したため、被控訴人の「危い」という声で前方に視線を戻したときは、すでに前示都電の安全地帯が目前に迫つていたので、慌てて急制動の処置をとるとともにハンドルを左に切つたが間に合わず、これと衝突したものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。そうだとすると、同訴外人は、自動車運転者として、絶えず前方を注視して進行すべき注意を怠り、いわゆる脇見運転をしたため本件事故をひき起したものであるから、本件事故は、同訴外人の過失に基因すること明らかである。

三、本件自動車は、控訴会社代表取締役サムエル・ラザソンの所有であり、サムエル・ラザソンはこれを控訴会社の使用に委ねていたが、訴外佐藤は、当時控訴会社に雇われて本件自動車の運転業務に従事していたこと及び、本件事故の発生は、同訴外人が社用を終えた後のことである事実は、当事者間に争いがなく、その(証拠―省略)によると、本件事故発生日の、訴外佐藤は、控訴会社代表取締役の自宅で保管するため会社から同代表取締役の自宅に運転すべき本件自動車を、同代表取締役の不在に乗じて自分の家に運転して帰ろうとし、その帰途前示「コーパ」に立ち寄つたものであること、同訴外人は、以前にも一、二回本件自動車を自宅に運転して帰つたことがあつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。そうだとすると、同訴外人が本件自動車を運転して「コーパ」から被控訴人の家に行くことは同訴外人の業務そのものではないけれども、同訴外人が本件自動車を運転して帰宅することは、同夜控訴会社のために本件自動車を自己の責任で保管し、翌日これを運転して控訴会社に出勤することの前提であるから、それは正に同訴外人が担当していた自動車運転の職務について控訴会社の事業の執行行為であつて、本件事故は、民法第七一五条の規定にいわゆる「事業の執行につき」生じたものというべきである。同訴外人がその地位を濫用して勝手に本件自動車を自宅に保管しようとしたことはこの解釈の妨げとなるものではないし、その途中「コーパ」に立寄り、更と被控訴人の家に行こうとしたことは、右の事業執行の過程中のことであるから、これによつても右の解釈に消長をきたすものではない。また、本件自動車は、控訴会社代表者個人の所有であつても、常時控訴会社においてその使用人である訴外佐藤をして運行させて使用していたものであつてみれば、本件自動車は、控訴会社等関係者の主観においてはとも角、客観的には控訴会社のため運行の用に供されていたものであるというべく、しかも本件事故が前認定のとおり控訴会社の事業の執行の過程において生じたものであるという意味で、事故発生の際における本件自動車の運行は、控訴会社のためのものというを妨げないから、この点に関する控訴人の主張は理由がない。そうだとすると、控訴人は、本件事故の発生によつて被控訴人がうけた後記損害中、いわゆる人的損害については自動車損害賠償保障法第三条本文の規定により、その余の損害については民法第七一五条第一項、第七〇九条の規定によつてそれぞれ賠償すべき義務がある。

四、そこで、被控訴人のうけた損害の点について判断する。

(証拠―省略)を総合すると、

被控訴人は本件事故の発生によつて

1  昭和三六年二月一日から同月一五日までの間東京都立大塚病院に入院し、退院後も同月一七日及び二〇日の両日通院して治療をうけ、その費用としてそのころ合計金一三、〇三八円を支払い、

2  右退院(一回)及び通院(二日往復で四回利用)のためタクシーを利用して一回について一八〇円の割合で合計金九〇〇円の出費を余儀なくされ、

3  安田火災海上保険会社に対する保険金請求に必要な診断書作成のために金六〇円を支出し、

4  被控訴人は、本件事故発生当時、桑沢学園第二部ドレスデザイン科に在学し、その春卒業が予定されていたが、本件事故が発生したため卒業試験を受けることができず、卒業が一ケ年延期されたことによつて、従前の就学にかかわらず、昭和三六年九月頃から昭和三七年三月まで重ねて就学しなければならないことになり、(イ)その期間の授業料合計一一、六二〇円(月一六六〇円の割)(ロ)文具、教材費合計金七、〇〇〇円(月一、〇〇〇円の割)及び(ハ)通学のための交通費合計金五、五三〇円(国電田端、渋谷間月七九〇円の割)の出費を余儀なくされ、

5  本件事故発生当時着用していたオーバーが汚染したので、その洗濯代として金三五〇円を支出した他、ツーピース、ブラース、肌着、スリツプ及び靴下等少くとも合計金九、六五〇円相当の衣服が使用不能の状態に汚染ないし破損して、同額の損害を蒙つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

6  被控訴人は、更に合計金二〇六、四二〇円の得べかりし利益を喪失した旨主張するので、この点について判断する。

(イ)  被控訴人は、本件事故に遭遇しなかつたならば、昭和三六年二、三月中も引き続き母の経営する前示「コーパ」に勤務して一ケ月金一五、〇〇〇円の割合の給与の支給を受けられた旨主張し、この被控訴人の主張に符合する(証拠―省略)があるけれども、これらは、被控訴人が前示のように桑沢学園に通学し、「コーパ」にはその余暇を利用して出向いていた程度であることが被控訴本人の供述から窺えるし、また、「コーパ」は、前示のように母の経営するバーであつたことなどから考えて雇傭に対する給与という関係が成立していたとはたやすく認めることができず、被控訴人が月々その母から金銭の支給を受けていたとしても、それは、たかだか被控訴人が母の店を手伝うことによつて得ていた小遺いと解するのが相当であつて、他に被控訴人が同バーで稼働する対価として使用者としての母から毎月定額の給与を支払われていたと認めるべき証拠はない。しかも、前示「コーパ」は、本件事故の発生と同時に廃業したことが(証拠―省略)によつて明らかであるから、このことからしても「コーパ」の営業継続を前提とする被控訴人の主張は理由がない。

(ロ)  被控訴人は、前示桑沢学園を予定どおり昭和二六年三月に卒業していたならば、同年四月から適当な職場に就職できた筈であり、しかも、その場合の一ケ月の収入は、現状すなわち、被控訴人が昭和三七年四月から株式会社東武百貨店に就職して、手取月収金一五、二六六円を得ていることに照して、少くとも金一五、〇〇〇円はあつたと考えられる旨主張し、(証拠―省略)によると、被控訴人は、昭和三七年三月前示桑沢学園を卒業し、同年四月ころ株式会社東武百貨店に就職し、同年五月分の手取月収額が金一五、二六六円であつたことが認められるが、同百貨店は同年五月ころ開店したものであることも(証拠―省略)によつて明らかであるから、被控訴人が昭和三六年三月と前示学園を卒業して適当な職場に就職したとしても、ただちに同百貨店における月収を基準として被控訴人の得べかりし利益額を算定することは相当ではない。しかしながら、被控訴人は、私立文京学園女子高等学校を卒業後、昭和三一年四月から翌三二年三月まで杉野ドレスメーカー学園本科に、昭和三三年一〇月から翌三四年九月まで同学園研究科にそれぞれ在学してその課業を卒え、本件事故当時二四才であつたこと及び、前示の桑沢学園第二部ドレスデザイン科には昭和三五年四月に入学し翌三六年三月に卒業する予定であつたことは、(証拠―省略)によつて認められるので、かような学歴及び年令の女子が東京都内においてその履習した学業を活用できる職業に就職した場合においては、少くとも一ケ月に金一万円程度の収入を得ることができることは、公知というべきである。(ちなみに、総理府統計局編集第一二回日本統計年鑑(昭和三六年)によると、昭和三五年の「衣服その他の繊維製造業」に属する旧制中学校並びに新制高校卒業以上の女子職員の平均年令は二三・九年であり、その一月の給与額は金九、八四二円である。(同年鑑三四五頁))そして、わが国における労働力の需給関係において需要が極めて多い現状からみて、被控訴人が昭和三六年三月に前示学園を卒業していたならば、同年四月から東京都内においてその履習してきた学業を活用しうる職業に就くことができたものと認めるのが相当であるから(被控訴人は、昭和三六年一月ころは未だ前示学園卒業後の就職先は決つていなかつた旨供述するが、このことは右認定の妨げとはならない。)、被控訴人は、本件事故の発生によつて同年四月から翌三七年三月までに少くとも合計金一二万円の得べかりし利益を喪失し、もつて同額の損害を蒙つたものといわなければならない。

7  (証拠―省略)及び弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人は、本件事故発生後前示のように入院ないし通院して前示負傷の治療をうけ、前示学園の卒業も延びて精神的な苦痛を味わつたけれども、幸いにも、現在では負傷もほとんど完治し、顔面の傷の部位は前額部の頭髪の生え際であつて、特に指摘されない限り気が付かない程度の瘢痕を残しているに過ぎないこと、訴外佐藤は、本件事故によつて被控訴人及びその母に対し、それぞれ傷害を負わせたので、その見舞として両人に合計金五万円を贈つていること(被控訴人は、内金二万円を慰藉料の一部に当てた旨自陳し、同額以上を充当すべきであるとする控訴人の主張はない。) が認められ、この認定に反する証拠はない。これらの事情と、当事者双方についての前示諸般の事情とを併せて考えると、被控訴人の本件事故の発生によつて蒙つている現在の精神的苦痛を慰藉するためには、金三万円の慰藉料をもつて相当であると考える。

8  以上の理由によつて、被控訴人が本件事故の発生によつてうけた財産的並びに精神的損害は、前示1ないし、5、6の(ロ)及び7の合計金一九八、一四八円であり、そのうち5以外の損害が自動車損害賠償保障法第三条本文の規定によつて控訴人に賠償を求めることができるいわゆる人的損害である。

五、被害者である被控訴人に過失があつたかどうかについて判断すると深夜、被控訴人がその母とともに訴外佐藤のすすめに応じて本件自動車に乗車したことは前示認定のとおりであるが、同訴外人は前示「コーパ」でビール一本に手を付けたけれども、その全部は飲まなかつたことが被控訴本人の供述によつて明らかであるうえ、本件事故発生直後警察官による取調べの際も、本件事故が同訴外人の飲酒に基因して発生したものとされた形跡のない本件においては、同訴外人は、本件事故発生当時自動車の運転を禁止される程度の酩酊はしていなかつたものと認められ、したがつてまた、被控訴人が同訴外人の飲酒酩酊の事実を知りながら本件自動車に乗車したものと認めるべき証拠はない。そうだとすると、被控訴人が深夜同訴外人のすすめに応じて本件自動車に乗車した一事のみをもつて、被控訴人にも本件事故ないしは損害の発生について過失があつたということはできない。なお、前示甲第三号証の一には、本件事故発生の直前、被控訴人が運転中の訴外佐藤に話しかけたため、同訴外人がそれに釣られて脇見をしたため運転を誤つて本件事故を惹起した旨の記載部分があるけれども、これは前示甲第三号証の二及び被控訴本人の供述に照して採用しがたく、他に被控訴人の過失を認めるに足りる証拠はない。

六、そこで、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、前示認定にかかる金一九八、一四八円の損害の賠償を求める限度においてこれを正当として認容し、その余は失当として棄却することとし、これと符合しない原判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条前段、第八九条、第九二条本文、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して主文判決のとおりする。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判長裁判官 小 川 善 吉

裁判官 高 瀬 秀 雄

裁判官 羽 石   大

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